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契約書の作り方と製本の方法

更新日:2022年11月8日


 目次   

本記事は、メル行政書士事務所が執筆・運営しています。


契約書の作成にあたっては、契約内容の検討からはじまり、印紙税法上の義務などの法令上の定めの他、製本・押印の仕方などについては、法慣習や商慣習によって規律されている部分も多く、格式の整った契約書を作成するには、知識が必要となります。本稿では、こうした契約書の書き方・作り方について基本的事項を解説します。


契約書の構成


契約書は、以下のような構成をとることが一般的です。場合によっては、冒頭に合意事項を一覧できる早見表を添付するなど、契約書管理上の便宜のため、図表や別紙形式で添付資料を活用することも考えられます。

  1. 前文契約当事者および契約に至る経緯とともに、契約の目的について記載します

  2. 実体条項取引に関わる当事者の権利義務について記載します

  3. 一般条項損害賠償責任、有効期限など、契約の一般的事項について記載します

  4. 後文契約書の通数や正本・副本の別について記載します

  5. 記名押印両当事者が記名押印する欄を用意します

前文


前文としては株式会社○○(以下「甲」とする)と株式会社○○(以下「乙」とする)とは、甲の○○業務の乙に対する業務委託に関して、以下の通り合意するなど、契約の当事者と内容が一読して判別できるように簡潔に記述します。


場合によっては株式会社○○(以下「甲」とする)と株式会社○○(以下「乙」とする)とは、甲において、乙に対する○○に関する研究開発業務の委託の可能性について検討するため、乙による技術情報の開示と甲による秘密の保持について、以下の通り合意するのように、契約の目的について詳細に記述することが、むしろ望ましいこともあります。秘密情報の目的外使用を禁止する必要がある秘密保持契約書のように、契約の目的が当事者の権利義務に影響を及ぼす場合などが、このようなケースに当たります。


一般条項


一般条項としては、必要に応じて以下のような条項を置きます。どの一般条項を契約書に記載し、どの条項を記載しないかは、当事者の経済的な信用力や信頼関係の程度にもよります。

  1. 損害賠償責任

  2. 不可抗力免責

  3. 秘密の保持

  4. 期限の利益の喪失

  5. 契約の解除・解約

  6. 反社会的勢力の排除

  7. 有効期間・残存条項

  8. 完全合意

  9. 誠実協議

  10. 仲裁

  11. 裁判管轄

なお一般条項については、雛形の転用をすることが多いと思われますが、当事者の間での責任の所在や有事の対応など、重要な事項に関する合意を含むため、相手方との既存の取引関係の有無や取引相手としての重要性、自己の資力などに応じ、個別案件毎に検討することが望ましいと言えます。


後文


後文としては、「以上を証するため、本契約2通を作成し、各当事者が記名押印の上、各1通を保有する」のように、契約書の通数などを記載します。一般的には二通となると思われますが、当事者が三者であれば、当然三通必要となります。


記名押印


記名押印とは、署名によらずに氏名や名称を記載し、それに対して判子を押印することです。なお「署名」とは、自筆で氏名や名称を自書することです。そのため、あらかじめ印刷された氏名や名称の横に押印する形式の場合には「記名押印」となります。「記名捺印」「署名捺印」などの言い方もありますが、その法的効力や格式に特段の差異はありません。


このような署名の効力については、民事訴訟法により定められていますが、「署名」であっても「記名押印」であっても、証拠価値に高低はなく、いずれもその文書が当事者の意思表示であると推定されます。


印影と法的効力


押印に当たって使用する判子は、登記に用いる書類などでない限り、実印・認印のいずれであっても差し支えありません。海外の当事者の場合、押印の代わりにサインを求めることもあります。また契約を電磁的記録の形式で行う場合には、電子署名法により、電子証明書を付した「電子署名」であっても、「署名」や「記名押印」と同等の証拠力が認められています。


なお法人の場合、記名押印する代表者ないしは代理人は、その契約に関して法人の代理権を有している必要があります。一般的には「代表取締役社長」「○○業務担当取締役」などの役員の名義によるべきと考えられますが、内部的に代理権を有する場合には「法務部長」「○○部長」「○○支店支配人」などの役職者によることも可能です。


契約書の役割



契約書の役割としては、以下のように紛争の予防、取引の円滑化、交渉のイニシアティブ、権利の設定、証拠化、債務名義化が挙げられます。


紛争の予防   


契約書は当事者間の権利や義務について記載する文書であり、かつそれに尽きています。そのため必ずしも取引の全体像や細部まで明らかになるような書類であるとは限りません。仕様書や説明書、計画書のような別の書類により、取引の枠組みやその細部が決定されている場合もあります。それにも関わらず契約書こそが取引の基本であるとされているのは、こうした権利義務が、当事者間の役割分担を決定することになるためです。


相手方に対してどのような要求をすることができるのか、そして相手方からの要求にどれぐらい応じる必要があるのかは、契約書を基準にして決定されます。そのため契約書としてあらかじめ合意しておくことにより、言いがかりや無理難題を押し付けられるようなことがなくなり、紛争を予防することにつながります。


取引の円滑化


契約書を締結することにより、コミュニケーションエラーやお互いの思い違いを防ぐことができ、その後の取引を円滑にすることに役立ちます。例えば製品の開発委託契約を締結するような場合には、開発目標や開発期間について合意し、技術上のノウハウなどの秘密情報の取り扱いについて定め、責任者や問い合わせ先も特定します。こうした合意があることにより、安心して技術情報を提供したり、開発後の計画を進めたりすることができます。


このような合意をする過程で、営業部門や開発部門それに経理部門など様々なステークホルダーが関与することにより、その取引への共通理解が生み出されることも、その後の協力をスムーズにします。


交渉のイニシアティブ 


契約を締結する場合に、契約書は当事者のどちらかがその案を提示することになります。それに対してもう片方の当事者が修正を依頼し、その修正依頼に対して再修正を依頼するというような形で契約交渉が進みます。図式的には、契約書を提示した側に有利に天秤が傾いている契約書を、交渉によりイーブンに直していくイメージです。


そのため契約書の案をはじめに提示することができれば、それによって交渉のイニシアティブを握ることが容易になります。契約書の提示を受けた相手方は、まずは受け身でその内容を精査することになるためです。また自前の契約書を用意することにより、相手方に対して信頼性を高める効果も期待できるでしょう。


権利の設定 


民法は意思主義を採用しているため、意思表示のみで契約は有効に成立します。そのため口頭で「売った」「買った」と言ったとしても、内容が特定されていれば、法律行為として欠けるところはありません。しかし一方で、こうした口頭の取引により取り決められる内容には限りがあります。人間は一度に多くのことを記憶することができないため、細目的な事項や特別な合意を取り込みたい場合には、やはり契約書として文書にしておかなければなりません。


契約書にすることにより、例えば「委託者は受託者に対して、その業務の状況について、一か月毎に書面で報告を求めることができる」というように報告を求める権利を規定したり「別表1に定める者は、相手方から受領した秘密情報の開示を受けることができる」というように別表を活用するなどして多数の関係者の権利義務について明確に定めることも可能となります。



証拠化 


古代ローマの時代から、人々は契約書に契約の内容を書き記してきました。「言質を取る」という表現がありますが、文書に書き記された言葉に対して、人々は古くから特別な価値を見出してきたと言えます。現代では裁判制度が整備されたことにより、契約の内容は、司法権によってその実現が担保されています。


当事者間のトラブルが法的紛争に発展して裁判所に訴えがなされると、口頭弁論を経て判決が下され、最終的には強制執行制度が控えているのです。こうした現代の裁判制度においても、民事訴訟法上、当事者が記名押印した文書はその内容が真実であるとみなされると規定されています。このように契約書には高い証拠価値が認められているため、契約書を作成することにより証拠を固めることができます。


債務名義化


相手方が契約の内容を履行してくれない場合、原則としては裁判所に訴えをして判決を出してもらわなければ、強制執行をすることはできません。そして裁判には時間がかかり弁護士費用や手数料などの費用が掛かります。


しかしあらかじめ公証人から執行分の付与を受けた場合には、契約の不履行があれば、直ちに契約書を根拠に強制執行をすることができます。このように強制執行の根拠となる文書のことを「債務名義」と言います。契約書を作成することにより、その契約書の債務名義化も視野に入れることができます。


契約内容の検討



契約内容を検討するにあたっては、契約の目的を意識し、委託者か受託者か、ライセンサーかライセンシーかなど、その契約における立場を踏まえて、それぞれの契約条項を検討しなければなりません。


権利利益を侵害されるリスク


契約は当事者がWin-Winの関係を目指して自由意思により締結するものですが、企業規模や資金力などにより、交渉力において劣後する当事者が、不当にその権利利益を侵害されてしまうことがあります。そのためこのような場合においても、とりわけ危険負担や瑕疵担保責任など、取引の実行に何らかの瑕疵があった場合に、そのリスクをどちらが負担するのかについての合意は、自己の立場に不利益のないものとする必要があります。また品質保証の名目で製造方法や顧客リスト、仕入れ先などの本来秘匿するべきノウハウや秘密情報を相手方に不当に取得されることがないかどうかなど、個々の条項の文言が有する射程についても、自己の権利利益を防衛するという観点から精査しておかなければなりません。


過大な要求のリスク


なお契約書の内容は自己にとって不利益なものであるべきではありませんが、一方で相手方に対して過大な要求を含む契約書である場合、独占禁止法や下請法ないしは不正競争防止法などにより、かえってその合意が無効とされてしまうリスクがあります。また相手方に実務上実行不可能な義務を強いる内容の場合にも、争訟となったときに、裁判所によりその内容を限定的に解釈されるおそれがあります(秘密保持契約の内容として受領した情報全部について開示の禁止を定めていた場合、その合意を無効とする判例など)。


また事業の継続のために必要不可欠な取引についての契約においては、事後において紛争が生じること自体が、むしろ自己にとって不利益に働く可能性もあります。このような事業の存続にかかわるような重要な契約書においては、あいまい不明確な文言を使用しないようにすることとともに、過大に有利な内容の条項がないかどうかについても検討しておくことが望ましいと言えます。


製造物責任


消費者向けの物品の売買取引のように製造物責任法上の責任が発生するケースにおいては、仮に第三者から損害賠償を請求されたときに、当事者のどちらがその危険を負担するのかについて明確にしておかなければなりません。そもそも製造物責任法上の製造業者に該当するかどうか、そしてその責任を負担する資力や能力があるかどうかの検討をした上で、第三者から損害賠償請求を受けた場合の相手方に求償することができるかどうかといった点も含めて、責任の所在について契約書中に記載しておく必要があります。


関連記事2:「損害賠償条項について

関連記事3:「解除条項について

関連記事4:「仲裁条項について


権利義務の証拠化


あらゆる取引において、契約書はその基本を形作る最も重要な書類とされています。それは契約書が当事者の権利義務に関する合意を書面にしたものであり、その取引において相手方に対してどのような権利を有し義務を負うかは、契約書により定まるからです。


民法上は意思主義が採用されているため、たとえ口頭の合意であっても契約は何ら問題なく成立します。ただし口頭で決められる内容には限りがあり、証拠としても不十分です。そのため多くの場合には契約書が作成され、両当事者がこれに記名押印をし、その内容に合意したことを明確にします。このように契約書は合意内容を書面にした意志表示であるため、契約書の内容について後から「その条項については知らなかった」と主張してその責任を免れることは、相手方から提示された契約書であるためにたとえ本当に読み落としていたとしても、極めて困難です。


例えば、アウトソーシングしていた業務を内製化するために、委託先との契約を解除しようとした場合に、業務委託契約において「当事者は、解除の通知をして六ヶ月後に、本契約を解除することができる。」との解除条項がある場合には、少なくとも半年間はタイムスケジュールを遅らせる必要に迫られることになります。


法律用語の解釈


このような契約条項の読み落としがある場合は、そもそもそのリスクを知らないままに問題を放置してしまうことになりますから、取り返しのつかない事態になる可能性があります。また契約書を通読していた場合であっても、その表現が専門的であるために、法律知識がなければ正しく理解できず、不測のリスクを抱えてしまう可能性もあります。


こうしたリスクを回避するためには、契約書をしっかりと締結前に確認する必要があります。しかし契約書には法律要件と法律効果を明確に定義するための専門的な言い回しや技術的な条項が多々あり、その解釈やあてはめには専門的な法律知識が不可欠となります。


雛型のリスク  


現在ではウェブ検索機能の向上により、インターネット上でほとんどありとあらゆる情報を入手することができます。法律知識についてもその例外ではなく、契約書の雛型もウェブ上からダウンロードできる場合があります。このような雛型には、経済産業省などの省庁や業界団体が策定したものも含まれ、即時に廉価で一般的な内容の契約書を用意できることから、非常に便利であることは間違いありません。


法令改正への対応


ただし雛型はあくまでも一般的な内容の契約書であるため、その使用には制約やリスクが伴います。例えばその雛形の公開日付が半年以上前のものである場合には、民法や会社法をはじめとする法律や政省令その他のガイドラインが改正されていたときに、その改正内容を反映していないリスクがあります。


また契約書とは別に口頭やメールでの合意がある場合に、雛型の契約書にはこうした合意の取り扱いが記載されないため、コミュニケーションエラーの原因となります。さらに雛形においては契約の目的や対象物についても概括的に記載されている場合が多いため、相手方と複数の取引があるときには、どの契約がどの取引に対するものか混乱が生じる可能性があります。このような理解や認識の行き違いは、必要のない紛争の種となります。


法形式の選択


また雛型を使用するにあたっても、雛型を正しく使用するためには、やはり法律的な知識が必要となります。例えば使用する雛型を決定するにあたり、その取引が代理店契約であるか業務委託契約であるか判断が難しいケースもあり、誤った雛型を使用して契約を締結すると、本来持っていた権利や利益を自ら損ねてしまうリスクもあります。


一方で雛型がそもそも使用できないようなケースも考えられます。その契約書で契約する取引が新規事業やニッチ業務に関するものであったり、三者契約のように多数の当事者が関与するような複雑な契約であるような場合には、雛形が想定するような一般的な取引とは言えないため、オリジナルの契約書が必要となります。


さらに契約書においては契約の締結日の他にも、契約の有効期間や残存条項の残存期間など複数の期間が合意されることが多く、こうした各期間の設定は、雛形を使用する場合でも個別に定める必要があります。


印紙の貼用と印紙税


契約書が印紙税法上の「課税文書」である場合、契約書に収入印紙を貼り、「消印」をする必要があります。収入印紙を貼る位置としては、契約書の表題の左上の余白などに貼ることが多いと思われますが、この点は当事者で自由に決めることができます。


消印の方法としては、その契約書の当事者又は代理人が、収入印紙と文書のどちらにも印影が重なるように押印することにより行います。収入印紙を貼っただけでは、収入印紙を転用する可能性があるとされるため、消印までしなければ、印紙税法上の義務の履行とならないことに注意が必要です。


主な課税文書としては、請負契約書(第2号文書)、継続的取引に係る契約書(第7号文書)、不動産売買契約書(第1号文書)、知的財産権譲渡契約書(第1号文書)などが挙げられます。


契約書の割印・契印


契約書を2通以上作成する場合には、それぞれの契約書が対になる存在であることが明らかとなるように、当事者のそれぞれが「割印」を行います。割印は、2通の契約書を重ね合わせ、そのいずれにも印影が重なるように押印をすることで行います。一般的には、契約書の表題の上部の余白に行います。


また1通の契約書が2枚以上の紙で構成されるときは、それぞれの紙が差し替えられていないことを証明するために、「契印」を行います。契印は、2枚のページのそれぞれに印影が重なるように、ページの継ぎ目に押印することで行います。製本を袋とじの方法により行った場合には、袋とじの帯部分にのみ契印をおこなうこともあります。


契約書の製本


1通の契約書が2枚以上の紙で構成されるときは、契約書の製本を行います。契印を各ページに行った場合、ホッチキスで綴じたのみでも差し支えはありませんが、ページ数が多い場合や契約書の格式を整えたい場合には、さらに袋とじなどの方法により製本を行います。


袋とじにより製本をする場合、ホッチキスによりページを固定した後、契約書の左端に袋とじ用の帯を表紙と裏面にまたがるように貼りつけ、帯の余った部分を切り取ることにより製本をします。また市販の製本用のテープを用いることにより、糊付けなどの手間を省き、より見栄えの良い製本を行うことができます。


契約書の郵送


契約書の作成が完了した後は、その契約書を相手方に郵送し、記名押印の処理を行います。あらかじめ自己の記名押印欄への押印及び割印・契印処理を行った契約書を2通送付した上で、いずれにも相手方に記名押印をしてもらい、そのうち1通を返送してもらう方法が広く行われています。


なお郵送の方法としては、ゆうパックなどを利用する方法の他、原則としては簡易書留などにより追跡可能な郵送サービスを利用することが安全です。郵送に際しては、内容物の過誤に備えるため、同封書類の一覧を示した送付状を添付することが望ましいと言えます。


契約書の保管


当事者による押印が完了した契約書は、その後の取引の実行や事後の紛争に備え、保管を行います。契約書類の保管に関しては、会社法の他、法人税法などの税務関連法規において保管期間が法定されています。合併契約書など会社法上の書類に関しては10年間、一般の取引契約書に関しては、法人税法において原則7年間とした上で、欠損の繰り越し処理との関係で、欠損金が生じた事業年度に関しては10年間とされています。また雇用関連の契約書については、労働基準法により5年間の保管義務が課せられています。


なお契約書を含む税務関係書類の保管に際して電子帳簿保存法により、税務署の事前承認の下で原本のスキャン保存が認められていましたが、令和4年1月1日施行の法改正により、税務署長の事前承認は不要となりました。システム関係書類の備え付けなど一定の要件のもと、スキャン保存が認められています。ただしこれらの法効果はあくまで税務関連に限られるため、事後の紛争予防という観点からは、民事訴訟法に基づき原本を提出できるよう、できる限り原本を保管しておくことが望ましいと言えます。

 

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