秘密保持契約について

更新日:11月8日


  1. 秘密保持契約とは

  2. 秘密保持契約の種類

  3. 秘密保持契約の必要性

  4. 秘密保持契約の注意点

  5. 秘密保持契約の概要

本記事は、メル行政書士事務所が執筆・運営しています。


秘密保持契約(NDA)とは


秘密保持契約とは、Non-Disclosure Agreement(NDA)とも呼ばれ、当事者の一方又は双方が、相手方から受領した情報について、秘密を保持することを約する契約です。秘密保持の内容としては、相手方の承諾なく第三者に開示又は提供しないことの他、受領した情報を本来の目的とは異なる目的で使用することの禁止や、相手方の求めに応じて秘密情報を破棄または返還することなども含まれます。


さらに必要に応じて、秘密情報を複製することの制限や秘密管理体制の確立など、より厳格な秘密保持義務を課す場合もあります。また秘密保持契約において、情報を受領した当事者の競業避止義務などが定められることがあります。



秘密保持契約(NDA)の種類


秘密保持契約は、締結されるタイミングや締結する当事者の地位によって、以下のように区分することができます。

  1. 事前の検討のための秘密保持契約

  2. 本契約に付随して締結する秘密保持契約

  3. 従業員又は役員と締結する秘密保持契約

事前の検討のための秘密保持契約


何らかの重要な契約を締結するのに先立って、あらかじめ秘密情報の開示が生じるときに、秘密保持契約が締結されることがあります。考えられるケースとしては、以下のような場合があります。

  1. 株式移転や吸収合併などのM&Aを検討する場合

  2. 業務提携やアライアンスを検討する場合

  3. 機密情報を契約の検討のため相手方に開示する場合

 M&Aや事業譲渡にあたっては、Due Deligence(DD)において営業情報や技術情報の他、従業員の雇用管理情報などを開示することになるため、秘密保持契約を締結する必要性が高いと言えます。また特許出願前の新技術を製品化するために業務委託契約をメーカーと検討する場合や、品質保証上の理由で、納品先から契約段階で製造工程に関する資料の開示を求められた場合など、契約を締結するに先立って機密情報を開示せざるを得ない場合にも、秘密保持契約が締結されます。


本契約に付随して締結する秘密保持契約


代理店契約や製造委託契約、共同研究契約など、顧客リストや仕入れ先などの営業情報、ノウハウや製造方法のような技術情報を開示する取引において、開示された情報が漏洩したり、類似製品の開発などの不正使用がなされたりすることを予防するため、秘密保持契約が締結されることがあります。また労務管理業務の外部委託などの場合においては、従業員の個人情報が秘密保持契約の保護の対象となります。


取引の本契約の契約書において秘密保持条項が置かれる場合の他に、秘密保持契約書が別途取り交わされる場合もあります。秘密情報を保護する必要性が特に高い取引においては、秘密情報の取り扱いについて細かく規定する必要があり、本契約とは別に秘密保持契約書を用意することが合理的です。ただしこの場合には、事後の混乱を避けるため、秘密保持契約書の対象となる取引について、「〇〇日付の業務委託契約に関する秘密情報の取り扱いについて」などの記載により、明確に特定しておかなければなりません。


従業員又は役員と締結する秘密保持契約


入社時の雇用契約の締結に伴って、秘密保持契約が交わされる場合があります。このような秘密保持契約書を取り交わしていない場合においても、就業規則において秘密の保持が規定されていることもあります。なお労働契約法により、労働者との個別の契約において、就業規則よりも労働者にとって不利益な規定は、その限りで無効となりますので、就業規則の作成義務を負う事業者においては、いずれにしても就業規則への秘密保持義務の記載は必要となります。


また役員については、取締役の善管注意義務の内容として当然に秘密保持義務を負いますが、秘密保持義務の内容を明確に特定するため、別途さらに秘密保持契約を取り交わす場合もあります。


秘密保持と職業選択の事由


従業員又は役員との秘密保持契約の特殊性として、労働契約法その他の雇用関連法令の規律を受けることの他に、憲法上の職業選択の自由との均衡を考慮する必要があることが挙げられます。従業員や役員に対して、競合他社への転職等により自社の秘密情報が流出する危険を予防するため、秘密保持契約において、競合他社への一定期間の就職禁止が規定されることがあります。このような制限は、職業選択の自由への制約となるため、金銭的な代償措置などが十分に取られていない場合には、無効とされてしまう可能性があります。


秘密保持契約の必要性


 秘密保持契約を締結するメリットとして、以下のような点を挙げることができます。

  1. 秘密情報の関係者を特定できる

  2. 不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を期待できる

  3. 不正競争防止法上の「営業秘密」以外も保護できる

秘密情報の関係者を特定できる


法人間の秘密保持契約である場合、秘密情報を開示する「開示当事者」と秘密情報を受領する「受領当事者」を特定したとしても、「当事者」である株式会社などの法人は身体を持たないため、実際にはその法人の役員や従業員がそれらの情報の開示や受領を行うことになります。


この場合において、例えば品質保証部門に対して開示した製造工程の情報を、製造部門の従業員が閲覧した場合、開示当事者の技術上のノウハウが、受領当事者において不正に使用されてしまうリスクが発生します。またアルバイトや請負先の従業員など、必ずしも受領当事者の管理の及ばない者に秘密情報が閲覧された場合には、それらが外部に流出するリスクが高まります。このようなリスクを予防するため、秘密保持契約において秘密情報に関与することができる者をあらかじめ特定しておくことが有効な手段となります。


 条文例:秘密情報の関係者の特定 


第〇条 秘密情報の開示

受領当事者は、以下の各号に該当する秘密情報について、それぞれ各号に規定する者に限り、必要な範囲内で開示することができる。

 (1)本製品の仕入先、製造工程その他の品質保証情報:品質保証部門の従業員

 (2)本製品の精製方法その他の技術情報及びノウハウ:顧問弁理士〇〇


不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護


秘密情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には、秘密保持契約上の権利の他に、営業秘密の開示の差し止め請求権や損害賠償請求権さらには刑事上の営業秘密侵害罪の追求など、不正競争防止法上の権利を行使することができます。秘密情報が営業秘密に該当するかどうかは、以下の三要件により規定されます。

  1. 秘密管理性秘密として管理されていること

  2. 非公知性すでに公然と知られていないこと

  3. 有用性事業活動に有益な技術上又は営業上の情報であること

このうちの有用性については、公序良俗に反するような反社会的な情報でない限り、非公知性と秘密管理性が認められる場合には、多くの場合に通常認められるとされています。その情報が現に使用されていることも必要ではありません。また非公知性も、特許権における非公知性とは異なり、他にその情報を取得している者がいても、その者が事実上その情報を公開していなければ、なお非公知性が認められます。


これに対し、秘密管理性は営業秘密該当性の判断において最も争点化しやすい要件であり、経産省による「営業秘密管理指針」においても、紙面の大半を割いて詳細に規定されています。第三者に対して秘密情報を開示する場合には、秘密保持契約により受領当事者に守秘義務を負わせることにより、この「秘密管理性」要件を満たす可能性が向上します。


「営業秘密」以外の情報の保護


前述のように、不正競争防止法による保護を受けるためには、営業秘密該当性に関する三要件を満たす必要があり、必ずしも開示丈夫のすべてがこれらの要件を満たすとは限りません。例えば業務用のマニュアルのような資料は、社内において秘密として管理されているとは認められない可能性がありますが、社外に対する関係では、なお秘匿するべきノウハウに該当する可能性があります。このような秘密情報は、秘密保持契約によって受領当事者に対し、守秘義務を負わせる必要があります。


秘密保持契約の注意点


 秘密保持契約を締結する上でのリスクとして、以下のような点を挙げることができます。

  1. 秘密情報が特定性を欠くリスク

  2. 片務的な秘密保持義務を負うリスク

  3. 秘密保持義務違反を立証できないリスク

秘密情報が特定性を欠くリスク


担当者間の実務的な打ち合わせ等まで考慮に入れると、取引に当たって開示する可能性のある情報は多岐にわたります。これらの情報のうちいずれが秘密情報として保護しなければならない情報であるかを判断することが容易でないケースもあるでしょう。そのため秘密保持契約に当たっては、「本取引に関連する一切の情報」等として、原則としてすべての情報が秘密情報であると定義する場合があります。単発かつ短期のスポット取引において、比較的やり取りする情報量が限定されている場合には、このような定義にすることに合理性があります。


ただし一方で、取引基本契約など複数かつ長期の取引を規律する契約において、このような定義を用いた場合には、開示される情報が多岐にわたるため、受領当事者においてこれらのすべてを秘密情報として管理することが現実的でなくなってしまうリスクがあります。こうしたリスクが顕在化することにより、受領当事者における情報管理がかえって弛緩する恐れがあります。また雇用契約に伴って従業員と締結する秘密保持契約のように、職業選択の自由など相手方において法令上保護されるべき一定の事由がある場合には、このような広範な秘密保持義務は、裁判所により無効と判断される恐れがあります。


こうしたリスクを予防するため、秘密情報は可能な限り具体的に特定することが望ましいと言えます。取引において開示が想定される秘密情報を列記したうえで、「その他これに準じる一切の情報」として記載漏れを防ぐ定義の仕方も考えられます。


 条文例:秘密情報の特定 


第〇条(秘密情報)

秘密情報とは、一方当事者(以下「開示当事者」とする)が、他方当事者(以下「受領当事者」とする)に対して開示した以下の各号のいずれかに該当する情報をいう。

(1)本製品の製造方法その他の技術情報及びノウハウ

(2)開示当事者の顧客リスト、仕入先その他の営業情報

(3)開示当事者の従業員の雇用管理情報その他の個人情報

(4)前号までの情報に準じるその他一切の情報


片務的な秘密保持義務を負うリスク


秘密保持契約において、一方の当事者のみが秘密保持義務を負う場合には、「秘密保持に関する誓約書」や「秘密保持に関する差入書」などの表題とするケースもあります。ただし「秘密保持契約書」との表題であっても、一方当事者のみが守秘義務を負担する内容となっていることもあるため、自社からも相手方に対して何らかの秘密情報を開示する可能性がある場合には、その契約書が片務的な内容でないか確認する必要があります。


秘密保持義務が双務的であったとしても、その負担する管理体制や開示できる第三者の範囲など、秘密情報の保護の程度に差が生じているケースもありますので、このような不利益な条項がないかも検討しなければなりません。また知的財産権の取り扱いに関する条項において、その出願の権利や持ち分について相手方に不当に有利な内容となっていないかも注意する必要があります。


秘密保持義務違反を立証できないリスク


秘密保持契約の目的としては、第一義的には、受領当事者における適正な秘密情報の管理を担保することにより、秘密情報の流出を防ぐことにあります。ただし、万が一秘密情報が流出してしまった場合には、開示当事者において、その損害の賠償を請求できる必要があります。しかし市場に類似製品が流通しているようなケースにおいても、その証拠が受領当事者の側に偏在していることもあり、秘密情報の流出を立証するのは容易ではありません。また仮に秘密保持義務違反を立証することができたとしても、秘密情報の流出により被った損害額を立証することも多くの場合には困難です。


このような立証上のリスクを予防し、受領当事者においてその管理の適正を確保するために、損害賠償額の予定が秘密保持契約において規定されることがあります。こうした取り決めをすることにより、開示当事者としては、秘密保持契約違反を立証することができれば、一定額の違約金ないしは違約罰を請求することができます。


 条文例:損害賠償額の予定 


〇条(損害賠償)

甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、その損害賠償として金〇〇円を相手方に対して支払う。ただし、相手方において、その損害額がより多額であることを証明したときは、その額を支払う。


秘密保持契約の概要


秘密保持契約には、その締結するタイミングにより、事前の検討のための秘密保持契と本契約に付随して締結する秘密保持契約があり、さらに憲法や労総契約法による規律を受ける秘密保持契約として、従業員又は役員と締結する秘密保持契約があります。


こうした秘密保持契約を結ぶことにより、秘密情報の関係者を限定することができる他に、不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を期待することができます。また必ずしも営業秘密ではない情報についても、守秘義務を負わせることができます。一方で、秘密情報が特定性を欠いて無効とされるリスクや損害賠償額の立証が困難となるリスクに対する対策も検討しなければなりません。相手方から秘密保持契約書を提示された場合には、片務的な義務を負担する内容でないかどうかに注意する必要があります。

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