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業務委託契約とは
業務委託契約とは、「業務」の全部または一部を外部に「委託」することを内容とする契約です。売買契約や秘密保持契約と並んで、ビジネスシーンにおいて活用されることの多い契約類型であると言えます。
業務委託契約は、その委託する「業務」の内容によって「役務提供型業務委託契約」と「製品給付型業務委託契約」に区分することができます。さらに「委託」の性質により、民法上は「委任契約」「準委任契約」「請負契約」および「寄託契約」に区分することができます。別名で「アウトソーシング」と呼称されることもあります。
業務委託契約の分類
業務の内容 → 役務提供型/製品給付型
契約の性質 → 委任/準委任/請負/寄託
業務委託契約がこれらの分類のうちいずれに該当するかにより、民法および商法において、その契約に適用される条文が変わり、その契約がどのような性格の契約であるかが変わります。民法は「委任」「請負」など13の契約を典型契約として定めており、どの典型契約に該当するかによって、費用負担や瑕疵担保責任などについて、委託者と受託者の権利義務が異なるためです。
業務委託と商法
また商法においても、特定の業種や業態については、「場屋経営者」のする「寄託」についての特則などが定められています。さらに「請負」の中でも、「運送」や「建設」に該当する契約は、道路運送法や建設業法等の各種の業法による規律の対象ともなることがあります。このような場合、約款の所轄官庁への届出義務などが発生します。
このように業務委託契約がどのような内容と性質の契約であるかという点は、その契約がどのような法律や政省令により規律を受けるのかの基準となるため、そこから発生するリスクを踏まえて条文を検討する必要があります。また印紙税法上の課税文書であるかどうかも、その契約の性質により判断されます。
業務委託と委任
業務委託契約は、委任契約である場合と請負契約である場合があります。これらのうちのいずれに該当するかによって、委託者の権利や受託者の義務、費用負担の分担など、その契約内容に違いが生じてきます。
なおその業務委託契約が委任契約であるか請負契約であるかは、契約書の表題が「委任契約」「準委任契約」または「請負契約」であるかどうかのみならず、その契約内容がいずれに該当するかによって総合的に判断されます。
民法と異なる規定をすることはもちろん可能ですが、その場合、他の規定と整合的かどうかを検討しておく必要があります。
委任 + 役務提供型 例:訴訟代理人契約、経営委任契約
準委任 + 役務提供型 例:理美容契約、コンサルティング契約
寄託 + 役務提供型 例:倉庫契約、銀行預金契約
委任の場合のデフォルトルール
受託者の義務:
受託者は、成果物の完成の義務を負わない一方、善良なる管理者の注意をもって義務を遂行する義務を負います。
再委託:
委託者と受託者の信頼関係により成立する契約であるため、受託者は委託者の承諾を得たときかやむを得ない事由があるときを除いて義務を再委託できず、自ら委任事務を処理しなければなりません。
費用負担:
委託者は、受託者が支出した費用を償還しなければならず、受託者が過失なく負った債務や損害賠償義務を、委託者が負担する必要があります。
契約の解除:
委託者と受託者は、損害を賠償して、いつでも契約を解除することができます。
瑕疵担保:
受託者は、債務不履行となる場合を除いて、瑕疵担保責任を負いません。
受託者は委託者の業務を「代行する」という側面が強く、委託業務の責任や費用を委託者が負担することになりますが、業務状況の報告の徴求などを通して、委託者は受託者をコントロールすることができます。また民法上は委任契約は無報酬が原則であるため、特約として報酬に関して書面上明確にしておく必要があります。
業務委託と請負
業務委託契約が「請負」である場合には、受託者は委託者の業務を「納品する」という側面が強く、委託業務の責任や費用は受託者が負担する一方、その成果物を作成する方法は受託者の自己責任として一任されており、委託者による受託者へのコントロールは、特約がなければすることができません。ただし請負契約は売買と同じく「双務契約」であり、委託者は受託者に対して報酬を支払う義務を負っています。
請負 + 製品給付型 例:製造委託契約、建設請負契約
請負 + 役務提供型 例:システム保守契約、運送契約
請負の場合のデフォルトルール
受託者の義務:
受託者は委託者の具体的な指揮命令を受けない一方、成果物を完成させる義務を負います。
再委託:
受託者は、業務の遂行にあたって履行補助者を用いることはもちろん、委託者の承諾を要せずに再委託をすることもできます。
費用負担:
受託者は自らの負担で業務を遂行しなければならず、費用を委託者に請求することはできませんが、成果物と引き換えに報酬を請求できます。
契約の解除:
委託者は、成果物の完成前であれば、割合的報酬を支払うことでいつでも契約を解除できる一方、受託者は契約を解除できません。
瑕疵担保:
委託者は、受託者に対し、瑕疵担保責任として、成果物に不適合があった場合、代替品・不足物の引き渡し、瑕疵の修補などを求める「追完請求権」を有しています。これらの義務を受託者が履行しない場合、委託者は不適合に応じた「代金減額請求権」や契約の解除、損害賠償請求などをすることができます。
業務委託と雇用契約・労働契約

業務委託契約は、業務の遂行を相手方に委ねるという点において「雇用契約」や「労働契約」と類似します。実際のところ、個人事業主が経営する店舗内の従業員等については、それが業務委託であるのか雇用契約であるのか明確となっていない場合もあるかと思います。
「雇用契約」においては、労働者は「労働」を提供する義務を負います。ここで「労働」とは、使用者の「指揮命令」に従い、その業務を遂行することを指します。そのため業務委託契約と雇用契約を区別する指標は、そこに指揮命令関係があるかどうかによります。
委託者が就業時間や休憩時間、就業場所を指定し、業務の方法について個別具体的な指示を行い、機材や原材料その他を提供していたというような場合、それが雇用契約である可能性が高くなります。一方で、就業時間や就業場所、業務の方法などが受託者に一任されている場合には、それが業務委託であると認められやすくなります。
業務委託契約としていた契約が実質的には雇用契約であった場合、最低労働賃金や労働時間規制、労働安全衛生などについて、労働基準法その他の労働法の規律対象となり、これらの法令に違反してしまう場合があるため、注意が必要です。
業務委託契約のメリット

業務委託ないしはアウトソーシングをすることによるメリットとして、以下のような点を挙げることができます。
コストの削減
事業活動においては、必ずしも本業とは言えないような付随業務や人事総務経理などのバックオフィス業務に対しても、事業規模に応じた設備投資や人件費が必要となります。このような周辺業務は、本業におけるようなノウハウの蓄積や資本投下がなされるとは限らないため、全体として能率が低下する原因となります。
また比較的小規模な企業であれば、バックオフィス業務のための人員を配置することが現実的でない場合もあります。こうした周辺業務を外部に委託することにより、設備投資や人件費を削減することができ、コストを抑えることができます。
コアコンピタンスへの集中投資
業務委託によるコストの削減により、経営資源を中核業務に投資することができます。人件費や設備投資を中核業務に集中させることで、ノウハウの蓄積や能率の向上を見込むことができ、更なる競争優位性の確保に資することになります。
電子部品やアパレルをはじめとする製造業においては、スマイルカーブ理論に基づき、競争優位の確保に継続的な資本投下を要する製造組立工程を外部に委託することにより、高い利益率を実現する経営手法が取られています。これによって製造組立工程への大規模な資本投下が不要となり、高付加価値を創出することができる上流の企画開発段階と下流の小売流通段階に注力することができます。
国内において消費者の選好が成熟していく中で、製品やサービスに独自性やオリジナリティを打ち出すために、このようなコアコンピタンスの確立がより重要性を増しています。業務委託を活用することにより、M&Aや事業譲渡などドラスティックな手法による企業再編によらなくとも、コアコンピタンスへの経営資源の集中を実現することが可能となります。
品質の向上
受託業務のための設備や人材、ノウハウを備えた専門業者に委託することにより、その業務の品質を向上させることが期待できます。