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下請法について

更新日:2022年11月8日

 

 目次   

  1. 下請法とは

  2. 下請法の適用対象

  3.  資本金区分

  4.  取引区分

  5. 親事業者の義務

  6. 3条書面の交付義務

  7. 5条書面の作成保存義務

  8. 下請代金の支払い

  9. 親事業者の禁止行為

  10. 下請法違反事例

本記事は、メル行政書士事務所が執筆・運営しています。


下請法とは 


下請法とは、その正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、その名の通り、下請代金の支払遅延をはじめとする親事業者による不当な行為から、下請事業者を保護することを目的としています。「優越的地位の乱用」その他の不正競争行為を取り締まる独占禁止法の特別法として位置づけられています。


独占禁止法においては、自由競争そのものを保護するという観点から不正競争行為を取り締まる一方、下請法においては、「適正下請取引」の実現を通して、中小規模の下請事業者を保護することを目指しています。そのため下請法は、独占禁止法において必ずしも保護法益とされていない中小企業者の保護という産業政策的な使命を担っているといえます。


独占禁止法は、公正な競争環境の確保を使命としており、中小企業を保護するということは、それだけ自由競争に対して政府が干渉することとなるため、独占禁止法の論理からすると避けるべきこととなるのですが、これは当事者の力関係により具体的な正義に即さない場合があるため、下請法がこうした場合について規制しています。


こうした趣旨から、下請法の適用対象というのは、法律上限定的に定められており、これらに合致する場合でなければ規制の対象となりません。


関連記事:「独占禁止法について


下請法第一条:この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする

こうした目的を実現するため、下請法は親事業者に対して、下請事業者に対する情報提供義務や法定書類の作成保存義務を課し、さらに11類型の禁止行為を定めています。このような下請法の規律に親事業者が違反した場合には、公正取引委員会による報告徴求や立入検査の対象となり、一定の義務違反に対しては刑事罰が定められています。


下請法の適用対象 


下請法は、全ての取引に対して適用されるものではなく、法定された特定の類型に当てはまる取引に対してのみ適用されます。下請法の適用を受けるかどうかの基準として、資本金区分および取引区分があり、そのいずれにも該当する取引に対して下請法が適用されます。


 資本金区分 


資本金区分とは、発注者である親事業者の資本金規模が一定額以上であり、かつ受注者である下請事業者の資本金規模が一定額以下であることを求める基準です。


これらの基準に該当しない場合には、取引区分を検討するまでもなく、下請法の適用はありません。なお50%以上の議決権を所有することによる支配関係にある親会社と子会社間およびグループ会社間の取引にあたっては、形式的に資本金区分に該当する場合であっても、下請法は適用されないとされています。


 資本金区分① 

物品の製造委託、修理委託

プログラムの作成委託、運送,物品の倉庫における保管,情報処理の役務提供委託

  • 親事業者が資本金3億円超 かつ 下請事業者が資本金3億円以下

  • 親事業者が資本金1千万円超 かつ 下請事業者が資本金1千万円以下

 資本金区分② 

上記以外の情報成果物の作成委託、役務提供委託

  • 親事業者が資本金5千万円超 かつ 下請事業者が資本金5千万円以下

  • 親事業者が資本金1千万円超 かつ 下請事業者が資本金1千万円以下


資本金区分としては、資本金3億円の区分が適用される取引と資本金5千万円の区分が適用される取引の二種類があります。原則として、物品の製造委託と修理委託以外は資本金5千万円の区分に分類されます。


なお広告デザインの作成委託(情報成果物の作成委託)とその広告の印刷委託(物品の製造委託)のように複数の資本金区分に該当する業務を一体として下請代金の区別をせずに委託した場合には、上記の二つの資本金区分のいずれかに該当すれば下請法の適用対象となります。


ただし、プログラムの作成委託(例:会計ソフトやゲームソフト等の作成委託)と運送業および倉庫業における役務提供委託、そして情報処理にかかる役務提供委託(例:受託計算サービスや情報処理システムの運用等の委託)については、政令により3億円の資本金区分が適用されます。


 取引区分 


下請法に定められた取引区分は、取引の内容により類型化されています。原則として、その委託取引が再委託に当たる場合や、委託元が販売する製品や提供するサービスについての委託取引に当たる場合のように、委託元が「業として」行う業務を外部に委託する場合が、下請法の適用対象となります。既成規格による製品の売買取引のように、業務委託の要素がなく「下請」とは言いえない取引に対しては、下請法は適用されません。こうした「下請」概念を類型化したものが以下の取引区分といえます。


下請法が定める取引区分としては、以下のように「物品の製造委託」「物品の修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の四つがあります。これらの取引区分に該当しない取引については、下請法が適用されない取引となります。


 取引区分① 

物品の製造委託

 下請法2条1項

 物品の製造委託の場合には、下請法において4つの類型が定められています。 


類型1

事業者が業として行う販売の目的物の製造を他の事業者に委託すること

例:家電メーカーが、家電の部品の製造を他社に委託する


類型2

事業者が業として請け負う製造の一部を他の事業者に委託すること

例:半導体メーカーが、半導体の部品の製造を他社に委託する


類型3

事業者が業として行う物品の修理に必要な製造を他の事業者に委託すること

例:時計メーカーが、修理サービスに必要な部品の製造を他社に委託する


製品そのものの製造に限らず、その半製品、部品、附属品さらに原材料の製造委託も、上記に含まれます。製品の製造に用いる金型を製造する場合も同様です。


類型4

事業者が自ら使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合に、その製造を他の事業者に委託すること。

例:産業機械メーカーが、自社工場で使用する産業機械の製造を自社で実施している場合に、その一部を他社に委託する


委託元の事業者がたとえ外部への製造販売目的ではなく自社使用を目的として製造をしている場合であっても、それが「業として」と言いうるほどに反復継続性がある場合には、その製造を他社に委託する場合に、下請法が適用されます。


 取引区分② 

物品の修理委託

 下請法2条2項

 物品の修理委託の場合には、下請法において2つの類型が定められています。 


類型1

事業者が業として請け負う物品の修理を他の事業者に委託すること

例:自動車の修理業者が、顧客から請け負った修理を他社に委託する。


類型2

事業者が自ら使用する物品の修理を業として行う場合に、その修理を他の事業者に委託すること

例:産業機械メーカーが、自社工場で使用する産業機械の修理を自社で実施している場合に、その一部を他社に委託する


下請法における「修理」には、メーカーや小売店が顧客に対して提供する修理サービスや、製品の保証期間中における修理等も含まれ、委託元の工場内等に出向いて行う修理も、それが労働者派遣に該当しない限り、下請法の適用があります。


 取引区分③ 

情報成果物の作成委託

 下請法2条3項

 情報成果物の作成委託の場合には、下請法において3つの類型が定められています。


類型1

事業者が業として提供する情報成果物の作成を他の事業者に委託すること

例:放送局が放送する番組の作成を他社に委託する。


類型2

事業者が業として請け負う情報成果物の作成を他の事業者に委託すること

例:システム開発会社が、請け負った開発を他社に委託する。


類型3

事業者が自ら使用する情報成果物の作成を業として行う場合に、その情報成果物の作成を他の事業者に委託すること

例:システム開発会社が自社使用するシステムを自ら開発している場合に、その開発を他社に委託する。


ここで「情報成果物」とは、以下の3つを言います。一般に知的財産とされる成果物と類似しますが、知的財産としては必ずしも保護されないような成果物であっても、下請法の情報成果物に該当する可能性があります。

  1. プログラム会計ソフト、顧客管理ソフト、ゲームソフト等

  2. コンテンツ映画、テレビ番組、CM、動画、音楽、アニメ等

  3. デザイン・文章容器包装デザイン、広告デザイン、設計図、報告書等


 取引区分④ 

役務提供委託

 下請法2条4項

 役務提供委託の場合には、下請法においての取引類型は1つしかありません。