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売買契約の書き方と読み方

更新日:2023年10月2日




売買契約とは


売買契約とは、目的物についての財産権を移転し、それに対する対価の支払いを買主と売主で合意することにより成立する契約です。売買は貨幣経済の基本であり、民法が定める典型契約の中でも、売買契約は最も重要な双務契約の一つです。


近年はBtoC、BtoBならびにCtoCの全てにおいてEコマース(EC)の市場規模が拡大し、生産者から流通業者を経て店舗での小売に至る伝統的な販売経路とは異なった売買の形態(生産者から消費者への直売、ECセレクトショップを介した売買)も急速に普及しています。



基本契約と個別契約

 

売買契約は、その契約の位置づけにより以下の二つに区分することができます。


個別契約としての売買契約


売買の目的物、支払代金、代金支払時期、決済方法、引き渡し時期、引き渡し場所など売買契約の基本的な要素について、仕様書、発注書、見積書、注文請書、請求書など各種の当事者間の書類により合意する契約です。


これらの書類のうち、どの段階で契約が成立するかは、商慣習にもよりますが、買主から売主への発注書が契約の「申込み」に該当し、売主からか買主への注文請書が契約の「承諾」に該当します。注文請書が買主に到達した時点で、承諾の効力が生じ、契約が成立します。


なお改正前民法においては、承諾の通知はその発送の時点で効力が生じると規定していたため、承諾通知の発送の時点で契約が成立することが原則でした。しかし改正後民法においてこの特則は削除されたため、承諾通知の到達をもって契約が有効となります。


ECを経由した取引の場合には、これらの事項をECサイト上の注文フォームに記入して送信することが契約の「申込み」に該当し、「注文完了」のメッセージが注文者に到達した時点をもって契約が効力を生じます。


基本契約としての売買契約書


買主と売主の間で継続的に売買を行う場合、これらの動産売買契約に共通する事項をあらかじめ定めるものとして、「基本契約書」が取り交わされることがあります。基本契約においては、主に以下のような事項が合意されます。

  1. 個別契約の成立方法

  2. 納品・検査・検収の方法

  3. 瑕疵担保責任・製造物責任

  4. 所有権の移転時期・危険負担

  5. 代金の支払い方法・時期

  6. 損害賠償責任・不可抗力免責

  7. 誠実協議・合意管轄

売買契約は民法上の典型契約であるため、当事者間で明示又は黙示の合意がない事項については、民法の任意規定により規律されます。


売買に関する民法の任意規定においては、売主の瑕疵担保責任、代金支払いの場所・時期、解除権、債務不履行責任などについて定められています。そのためこれらのデフォルトルールを修正する必要がある場合には、基本契約において特に合意をしておく必要があります。また瑕疵担保責任は、その物自体の欠陥に関する責任ですが、その物の故障による火災や怪我などの拡大損害に関しては、「製造物責任法(PL法)」により、製造業者の賠償責任が定められています。


 また取引の内容や性質により、さらに以下のような事項について合意することもあります。

  1. 知的財産権の帰属

  2. 買主からの支給品・貸与品・金型の取り扱い

  3. 秘密の保持

売主が買主の交付した仕様書などに基づいて売買の目的物を製造し、これを買主に供給する契約(製造委託契約+売買契約)である場合には、その過程で機密情報の開示や知的財産権の取得や使用の許諾行為などが生じる可能性があるため、事後の紛争予防と機密の漏洩の防止のため、これらの事項について合意しておく必要性が高いと言えます。


民法上の瑕疵担保責任


売買契約は民法の典型契約であるため、瑕疵担保責任についても、第一義的には民法の任意規定が適用されます。民法上、売主が引き渡した目的物に種類、品質又は数量について契約の内容に適合しない瑕疵がある場合、買主は、売主に対して、追完請求権と代金減額請求権を行使することができます。


完請求権

相当の期間を定めて、売主に対し、修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しを求めることができます。ただし、買主に対して過分の負担を負わせるものでないときは、売主は、買主が指定した追完方法と異なる方法により、追完をすることができます。


代金減額請求権

追完請求をしても相当の期間内に売主が追完をしないときは、買主は、売主に対し、その不適合の程度に応じて、代金の減額を請求することができます。


その不適合により契約の目的を達することができないときは、売主はその契約の解除権を行使することができ、その損害について、損害賠償請求権を有します。商法上は、納品時の受入検査においてこうした不適合を発見した場合、買主は遅滞なくその旨を売主に通知しなければならないとされています。通知を怠った場合、こうした請求権は消滅してしまいます。


なお受入検査で発見することができなかった「種類」及び「品質」に関する瑕疵(「数量」の不足の場合を除きます)については、引渡し後6ヵ月以内にその瑕疵を発見した旨を売主に対して通知しなければ、瑕疵担保請求権、解除権及び損害賠償請求権を行使することができません。これは、改正前民法においては期間内に請求権そのものを行使しなければならないとされていたのが、通知により請求権を保全することができるという規定に改正されました。


瑕疵を発見した旨の通知をした後は、これらの権利の行使期間について特別の制限はなく、通常の時効消滅期間(行使できることを知った時から5年)に服します。


商法上の瑕疵担保責任


売買契約が商行為に該当するときは、瑕疵担保責任について、上記の民法による規律の特則として、商法が優先的に適用されます。投機目的での売買は絶対的商行為に該当し、「他人のためにする製造又は加工」に関する行為は営業的商行為に該当します。また商人が営業のためにする行為もまた付随的商行為となるため、動産売買契約の多くは商法の適用を受けることになります。


買主の検査義務・通知義務


商法の適用を受ける場合、買主は、引き渡しを受けた目的物に対して、遅滞なく、その物の検査をしなければなりません。また、その検査で瑕疵を発見したときは、その旨を直ちに売主に対して通知しなければ、その瑕疵に関して追完請求権、代金減額請求権、解除権及び損害賠償請求権を行使することができません。


動産売買契約書においては、こうした商法の規律に関する疑義を予防するため、検査の方法の他に、「遅滞なく」「直ちに」の意味内容を明確化する記載として「〇営業日以内」など通知期間について定めることが考えられます。


買主の保管義務・供託義務


なお種類の異なる目的物を引渡されたとき又は数量を超過して引渡されたときは、買主はその目的物又は超過分を、売主の費用により、相当期間保管するか供託をしなければなりません。買主においてこのようなリスクを予防したいときは、売買契約書により、買主が任意に処分できることとすることが考えられます。


売主の債務不履行



売買契約においても、売主により債務不履行のリスクは常に存在します。必ずしも売主に帰責事由がなくとも、原料の仕入れ困難や輸送上の事故など、不測の事態により目的物の引渡しが遅滞したり不可能になる恐れがあります。


解除権の行使


このような場合、売主の帰責事由の有無に関係なく、買主は、契約の解除により契約関係を清算することができます。解除をするためには、買主は、売主に対して相当の期間を定めてその履行を催告しなければなりませんが、その不履行により契約の目的を達することができないときや履行の見込みがないときは、催告を要せずに、買主は直ちに契約の解除をすることができます。


損害賠償の請求


売主に帰責事由があるときは、買主は、契約の解除とともに、あるいは解除をせずに、その損害の賠償を請求することができます。なお損害賠償の範囲として、賠償範囲を限定する趣旨で「直接かつ現実に生じた損害」との規定がされる例が多くありますが、このような記載の仕方は、法令上又は学説上の位置付けがないため、裁判でどのような効力を有するかは不明確です。売主として賠償範囲を限定したい場合には、賠償額の上限を○○円までとして定額としたり、売買代金の〇倍までとして限定することを検討するべきでしょう。


 条文例:賠償額の限定 


第11条(損害賠償)

 買主及び売主は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、〇〇円を限度として、その損害を賠償しなければならない。


買主の信用不安


売買基本契約書を取り交わした場合、長期間の継続的な取引が想定されるため、その後の経営状況の変化により買主に信用不安が生じる可能性もあります。民法上、売買における目的物の引渡しと代金の支払いは同時にすることとされています。ただし多くの売買契約においては、この任意規定の適用を排除し、納品が先履行、代金支払は後履行となっています。売主としては、このような場合に納品をしてしまうと、買主から代金を回収できないリスクを負うこととなってしまいます。


このようなリスクを予防するため、一方当事者に信用不安が生じた場合には、他方の当事者に解除権を発生させたり、期限の利益の喪失について定め、ただちに契約関係を清算できるようにしておくことも、検討しなければなりません。


 条文例:期限の利益の喪失 


第〇条(期限の利益の喪失)

 買主及び売主は、手形の不渡りがあったとき、差押えの申し立てを受けたとき、破産の申し立てを受けたとき、その他不信用な事実があったときは、相手方に対して負担する一切の債務について、期限の利益を失い、相手方に対し、直ちにその全部を弁済しなければならない。


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