2022年(令和4年)重要判例・行政通達

更新日:11月8日


 目次   

  1. JASRAC一部敗訴・音楽教室一部勝訴判決

  2.  演奏権をめぐる裁判の争点

  3. 日野市公園内ゴミ収集車専用路違法判決

  4.  住民訴訟とは

  5.  訴訟の経緯

  6.  違法判断

  7. 在外国民の国民審査権に関する違憲判決

  8. AI契約書審査サービスに関する法務省回答

本記事は、メル行政書士事務所が執筆・運営しています。


JASRAC一部敗訴・音楽教室一部勝訴判決


2022年10月24日に、音楽教室での演奏に対する著作権使用料をめぐる裁判について、JASRAC側が一部敗訴する判決が最高裁において確定しました。これは、音楽教室において生徒がする演奏については、音楽教室による演奏とは評価することができず、したがってJASRACに対する著作権使用料の支払いも生じないとする内容となります。


これに対し、教師による演奏については、音楽教室による演奏権の行使であり、したがってJASRACに対する著作権使用料の支払いを要するとして、音楽教室側の一部敗訴が決定した最高裁判決(2022年7月28日)を踏まえると、JASRACと音楽教室事業者の双方にとって痛み分けともいえる結果となりました。


2022年10月24日の判決と2022年7月28日の判決はいずれも、知的財産高等裁判所の2021年3月18日の判決に対する上告ないしは上告受理申立に対する判決であり、いずれもこれに不服申し立てをした当事者が敗訴し、結果としては原判決である知的財産高等裁判所の判決が確定した形となります。


演奏権をめぐる裁判の争点


音楽教室での楽曲の演奏に対する著作権の取り扱いが争われた本事案において争点となったのは、主に、音楽教室での演奏がそれぞれ「音楽教室を利用主体とするかどうか」「公衆に対する演奏といえるかどうか」「聞かせることを目的とするかどうか」という点です。


一つ目の争点は、音楽教室に対して演奏料を請求できるかどうかに関する争点であり、2点目および3点目は、著作権法22条が演奏権について「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定していることから、音楽教室における教師と生徒の演奏がそれぞれこの要件に該当するかどうかが争われた争点となります。


これに対して、最高裁は、第一の論点に関し、「演奏の目的及 び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当」として、「生徒の演奏こそが重要な意味を持」ち、音楽教室側の伴奏等は「生徒の演奏を補助するものにとどまる」ことから、音楽教室事業者が「著作物の利用主体であるということはできない」として、JASRACの主張を退けました。第2、第3の論点に関しては、「生徒は、その人数に関わりなく、いずれも「不特定」の者に当た」るとして「公衆に対する演奏」であることを肯定し、その上で「演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし」て、「聞かせることを目的とする」という点についても肯定したため高裁判決においていずれもJASRAC側の主張が認められています。


そのため第一の論点でJASRAC側の主張が退けられた生徒による演奏に関しては、音楽教室事業者側が勝訴し、その他の論点が問題となる教師による演奏に関しては、JASRAC側が勝訴する結果となりました。


日野市公園内ゴミ収集車専用路違法判決


令和2年12月11日、東京地方裁判所にて、日野市に対する公金支出差止請求に関し、原告の主張が認められ、被告である市長に対し2億5000万円余の賠償が命じられました。本訴訟の争点となったのは、都市計画法を変更せずに都市計画公園内に廃棄物運搬用の専用通路を市の裁量により設置することが認められるかどうかでした。結果として、こうした専用通路の設置には都市計画法の変更が必要であるとして、被告は敗訴しました。


住民訴訟とは


本訴訟は、地方自治法242条の2第4項の「住民訴訟」として提起されました。「住民訴訟」とは、地方自治体の財務会計上の違法行為に対して、住民がその差止や損害賠償を請求することができる制度です。


通常の民事訴訟や行政訴訟においては、原告に「訴えの利益」が認められる必要があり、そのため地方自治体の行為が違法であるだけでは足りず、その違法により原告の権利利益が侵害されていることが訴訟の前提条件となっています。こうした「訴訟要件」の存在により、地方自治体によるごみ処理場の建設その他、特定人を名宛人としないような通常の行政行為の違法を裁判で争うことは困難となっています。


しかし住民訴訟においては、原告となる住民が「住民監査請求」を前置することを条件として、「訴えの利益」がなくとも、財務会計上の行為に限り、こうした訴訟を提起することを認められます。これは主観的な利益を必要としない訴訟という意味で「客観訴訟」と呼ばれます。ただし地方自治体の行政行為のうち予算の支出を伴わないような行為はほとんどないと考えられるため、公金の支出の違法として構成することで地方自治体のほとんどの事業活動を「債務負担行為」として訴訟の対象とすることが可能です。


なお「住民監査請求」とは、住民が地方自治体の「監査委員」に対し、財務会計上の違法又は不当な行為の監査を求めることができる制度です。監査委員がこの監査請求を「理由なし」として却下したり、その措置が不十分であるときは、裁判所に対し住民訴訟を提起することができます。


訴訟の経緯


本件は、東京都が日野市内に北河原公園の都市計画決定を昭和54年に行ったことに遡り、その後平成17年に至って、日野市が本都市計画に基づく事業認可を受けて、「自然的雰囲気の溢れる散策の場とするとともに, 広域避難地となる都市公園として整備する」との方針のもとに、用地の買収や建設業者との請負契約の締結等の手続きが進められていきました。


一方で、日野市は平成15年に耐用年数を経過していた日野クリーンセンターの建替え工事を決定し、建て替え後の新日野クリーンセンターにおいては、国分寺市および小金井市との共同で利用するものとしました。この建て替え工事に際しての住民説明会において、廃棄物運搬者の通行路となっていた浅川の周辺住民から、以後多摩川側を通行路として使用するよう要望する要望書が提出され、市はこれを受けて上記の北河原公園内に産業廃棄物運搬路の設置を検討することとなります。


検討の過程においては、運搬路と公園内通路の「兼用工作物」とする案や、運搬路部分を都市計画から除外する案などがありましたが、「兼用工作物」は、都に対する照会において、公園の利用者の利用に供するという要件を欠く等との回答を受け断念し、都市計画から除外する案については、代替用地の確保が困難であるとされました。そのため第3の案として、「30年間の暫定的利用」という条件付であれば、都市計画の実質的には変更には該当しないとの解釈の下、廃棄物運搬用の専用路として設置することとして決定されました。


上記のような状況下において、住民により平成29年に住民監査請求が出され、これが監査委員により「理由なし」として却下されたことから、本件訴訟が東京地裁に対して提起されることとなりました。


違法判断


本訴訟において争点となった廃棄物専用路の「暫定的利用」に関しては、国交省による運用指針において、都市計画が20年を基準として長期的な整備水準を定めることとされていること等から、東京地裁は「30年という期間自体相当長期にわたる」としつつ、3市による共同処理のため使用されるクリーンセンターの耐用年数である30年としたことにつき、クリーンセンターの再度の建替えや耐用年数を超える稼働等により、「そもそも、本件通行路の利用が30年間に限定されているのかという点についても、重大な疑義がある」として、これが「暫定的利用」とは認められず、したがって都市計画の実質的変更に該当するとしました。


また都市計画の変更自体は、都市計画の内容や実施は地方自治体の「政策的・技術的判断」に委ねられているから、市の裁量により可能であったとしつつ、このような変更をする上で、市の判断の妥当性の検証をし、地域住民その他の利害関係者の意見を取り入れ、専門家の助言を受けるため、都市計画審議会への諮問や公聴会の開催等、都市計画法上の変更手続きが遵守されることが必要であるとして、こうした適正手続を実行しなかったことが違法であるとしました。


結論としてこのような日野氏の判断は、

重要な事実の基礎を欠き、あるいは、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとして、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものといわざるを得ない

としています。これは、日光太郎杉訴訟(東京高判昭和48年7月13日)以降、裁判所が行政庁の裁量行為の違法を認定する場合の慣例的表現となっています。


なお現実に廃棄物専用路を設置する都市計画の変更が可能であったかどうかについては、東京地裁は「市の広範な裁量に委ねられる」と一般論を述べるにとどまっていますが、日野市と国交省との協議において、国交省は「都市計画変更に伴って都市計画公園の面積が減ることについては、法令上は問題ない」と説明してており、代替土地の確保の困難という障壁もないことから、「シンプルに都市計画変更でよかったのではないか」との指摘を受けていた事情が事実関係として挙げられていることから、都市計画決定の変更自体は可能であったと思われます。ただし変更決定に対する地域住民の理解を得る上では、住民説明会の実施等、手続きが手間取ることが予想され、こうした変更手続きを潜脱する趣旨で「暫定的利用」ないしは「兼用工作物」という方便を用いたことが、違法判断につながったと言えます。


令和2年12月11日の上記地裁判決に対し、市が控訴しましたが、令和3年12月15日に東京高裁はこれを棄却し、令和4年9月9日に至って、これに対する上告も最高裁により退けられ、判決が確定しました。


在外国民の国民審査権に関する違憲判決


最高裁判所は、最大判R4.5.25(令和2(行ツ)255)において、最高裁判所裁判官の国民審査につき、海外に居住する在外国民が投票ができないことについて、これを違憲すなわち憲法に違反するとする判決を出しました。


最高裁判所裁判官の国民審査」とは、最高裁判所の裁判官についておよそ10年おきに、有権者の投票により、罷免を可とする投票が過半数を超えた場合に、その裁判官を罷免させることができる制度であり、司法に対する民主的統制を確保するものであるといえます。


在外国民の選挙権については、最大判H17.9.14において、在外国民が小選挙区立候補者に対する投票ができないことにつき、「憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書きに違反する」として、最高裁判所は違憲判決を出していました。本判決は、同判決の趣旨を国民審査にも及ぼすものです。


 本判決の判示事項は以下の通りです。


① 最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反する
②在外国民が、国が自らに対して次回の国民審査において審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を求める訴えは、適法である
③在外国民に国民審査に係る審査権の行使を認める制度を創設する立法措置がとられなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとされた事例

判示事項1は、在外国民が国民審査に投票できないことを憲法違反であると宣言するものであり、同2は、その訴えは「公法上の法律関係に関する確認の訴え」として、裁判所における判決を求めることができる法的紛争であると判示し、同3は、その憲法違反が国家賠償法上も違法であり、したがって国は原告に対して損害賠償をするべき旨を判示しています。


AI契約書審査サービスに関する法務省回答


ユーザーがシステムに入力した契約書に対し、AIにより、契約書のリスク診断や文言の修正の提案を行う以下のような「AI契約書審査」サービスについて、令和4年6月6日、法務省は「グレーゾーン解消制度」による回答において、このようなサービスは弁護士法72条(非弁行為の禁止)に違反する可能性が「ないとはいえない」としました。


AI契約書審査サービス

①ユーザーは、照会者との間でサービスの利用契約を締結し、所定の料金を支払うことによ り照会者が提供するアプリケーション上でAI契約審査サービス(以下「本件サービス」という。)を利用することができる。②ユーザーは、法務審査を希望する契約書を当該アプリケーション上にアップロードする。③照会者は、AI技術を用いて、アップロードされた契約書の記載内容について、ユーザー にとって法的観点から有利であるか不利であるか等の審査結果を当該アプリケーション上で表示する。

「法務審査」の内容

AI技術を用いて、当該契約書の記載内容につき、①法的観点から有利であるか不利であるか、②法的リスク③法的観点から修正を検討すべき箇所及びその修正の文案④法的観点から留意すべき事項について検討を促す旨⑤ 法的なリスクを数値化したリスクスコアをいずれもユーザーの立場に立ってアプリケーション上で表示する。

グレーゾーン解消制度」とは、産業競争力強化法に基づき、現行の法制度の下で事業者が実施しようとしている新規事業が適法なものであるかどうかについて、主務官庁の確認を求めることができる制度です。


こうしたグレーゾーン解消制度の趣旨は、取締法令や規制法令により、法令違反をおそれるあまりに、新規ビジネスや技術開発が委縮してしまうことを予防することにあります。そうした立法経緯を踏まえて、回答の内容も、何らかの前提条件を付す等して、法令上問題ない旨を確認するものが大半となります。


そのため本回答のように、法令違反の可能性を示唆するケースは稀であり、実質的には、そのグレーゾーンについて「黒」と判断されたものといってよいでしょう。ただし本回答は法的拘束力を有するものではなく、あくまでも個別の問い合わせに対する回答であるため、いわゆる「AI契約書審査」サービスの全てが弁護士法72条に違反するとするものではありません。そのような意味においては、本回答は、本照会のように「法的観点から有利であるか不利であるか等の審査」をユーザーの具体的な事情を踏まえて出力するようなシステムは、AIによるものであっても、非弁行為となるというひとつの限界事例を示したものと言えます。


弁護士法七十二条:弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

なお弁護士法72条関連の確認請求に関しては、令和3年1月21日付での「離婚協議書作成サービス」に対する回答において、ユーザーが入力した事項に応じて離婚協議書のひな形が表示されるサービスについて、「その他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことに当たる可能性がないとはいえない」としていました。離婚協議書作成サービスの概要は以下の通りであり、サービスそれ自体は無報酬でしたが、他に「養育費収納代行サービス」や「弁護士広告サービス」により手数料収入を得ていたことから、「報酬を得る目的で」の要件に当たると判断されたものと言えます。


離婚協議書案の自動作成サービス

①利用者は、オンライン環境下で、チャット形式で、必要事項及び質問に対する事項を 入力する。②離婚協議書のひな形が表示され、利用者がプリントアウトするなどして利用する。③利用者に課金は行わない。

このように法律事項に関して、ユーザーの具体的事情に対して具体的助言や提案をする行為は、非弁行為となる可能性があるとの立場をとっていました。「AI契約書審査」サービスに対する回答は、離婚協議書に対する回答の射程が、契約書に対しても及ぶことを確認したものであるといえます。


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