契約締結上の過失とは

更新日:11月3日


  1. 契約締結上の過失とは

  2. 契約締結上の過失が認められた事例

  3. 契約締結上の過失の対策

  4.  基本契約の締結

  5.  仮合意の書面化

  6.  取引経緯の保全

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契約締結上の過失とは 


契約締結上の過失」とは、いまだ契約が成立していないものの、その交渉の過程において相手方に損害を発生させた場合に、不法行為として、相手方に対し、その損害を賠償するべき責任が生じることを言います。契約の交渉当事者間において、仮に契約が成立しているとすれば「債務不履行」となるべき過失があるときに、「契約締結上の過失」の問題となります。


判例(昭和59.9.18)の文言によれば、契約交渉を行い契約準備段階に入った当事者の間では

相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の注意義務

が発生し、

これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約締結に至らない場合でも契約責任としての損害賠償義務

が発生するとしています。


契約が成立していないにもかかわらず、このような責任が生じるのは、交渉の過程において、相手方に対し、その契約が成立するものとの過度の期待を抱かせ、そのことによる契約成立への信頼が高度のものとなったときに、その信頼が法的な保護の対象となるためです。相手方としては、契約の成立を見込んで取引の準備をしたにもかかわらず、契約が不成立となれば、その投下資本を回収することができず、損害を受けることとなりるためです。


取引の開始に至るまでに実質的な検討が必要となる場合において、その取引が大規模であるほどに、あるいは利害関係者が多数となるほどに、こうした投下資本も莫大となり、準備期間も長期となる一方、当事者の正式な意思決定に手順を要し、契約締結の時期が遅れることとなり、「契約締結上の過失」に起因する紛争のリスクが高まります。


例えば、実質的な取引当事者の間を仲介する第三者が介在している場合や、テナント等の不動産のように決済までに期間を要する取引、あるいは製品の研究開発やM&Aのように当事者の資質や能力の検証と当事者間の信頼関係の形成があらかじめ必要な場合において、取引の当初にあいまいな合意がなされ、一歩当事者がその合意を基礎に準備行為を積み重ねたときに、何らかの事情により契約が不成立となり、紛争化することが考えられます。


契約締結上の過失が認められた事例 



事業者間の取引において「契約締結上の過失」が認められた事例としては、最判平成19.2.27が挙げられます。


事案の内容は、カジノに設置する遊技機の開発委託が海外の販売企業から国内の製造企業に対してなされ、これを別の企業が仲介していた事例において、交渉が決裂してしまい、製造企業が損害賠償請求をしたという内容です。


争点となったのは、仲介企業が、発注元である販売企業の確約のないままに、製造企業に対して「確認書」や「条件提示書」「発注書」その他の書類を交付して開発を続行させたことが「契約締結上の過失」に当たるかどうかという点でした。


事案を時系列で検討すると、次のようになります。


 H9.5 仲介企業が製造企業に開発を打診

 H9.6 販売企業、仲介企業、製造企業三社で合意し、開発に着手


 H9.8 仲介企業と製造企業の間で開発費用について口頭で合意

     仲介企業が製造企業に「開発費支払確認書」を交付

 H9.12 契約書締結の予定日(仲介企業から音沙汰がなく不締結)

     製造企業の催促により、口頭で契約の締結について合意


 H10.1 仲介企業が製造企業に「発注書」を交付

 H10.6 仲介企業が製造企業に「条件提示書」を交付


 H10.8 契約締結のための会合での販売企業の仕様変更要求により、三社の交渉が決裂

 

判例は

最終的に契約の締結に至らない可能性があることは、当然に予測しておくべき

であったととしつつも、仲介会社の上記の各行為により

契約が締結されることについて過大な期待を抱かせ、本件商品の開発、製造をさせたことは否定できない

として「契約準備段階における信義則上の注意義務違反」が認められるとして、製造企業の損害賠償請求を容認しました。


上記の事例においては、H9.12以降、製造企業は一貫して仲介企業に対して正式な契約書の締結を求めており、契約書の締結がなければ開発を続行しない旨を申し出ていました。


これに対して仲介企業が、正式な契約締結を保留しつつ「発注書」や「条件提示書」その他の書面を交付して、いわば暫定的・過渡的な合意を繰り返して行い、確実な量産化の見込みのないまま開発を継続させてきたという点が損害賠償請求の容認に至った主要な背景となっています。


ただし本判決の原審である高裁判決は、取引全体に関する「基本契約」が成立していなかったとして、仲介企業が

誠実な仲介の労を惜しんだものではない

とし、損害賠償請求を棄却していました。そのため本判決のような事例は、「契約締結上の過失」が成立するかしないかの境界的な事例であったと言えます。


このような紛争が生じた原因のひとつとしては、実質的な意思決定権者であり、経済的な効果帰属の主体は発注元である販売会社でありながら、法的な権利義務の側面では、何ら意思決定権を持たない仲介企業が製造企業との契約当事者となっていたことにより、実質的な当事者である製造企業=販売企業間での意思の疎通が困難となっていたことが挙げられます。


これに加え、「基本契約」が締結されていないにもかかわらず、仲介企業の意向により、開発委託と製造委託が一体のものとして取り扱われ、販売委託まで履行されなければ開発費用の回収が困難であった点も紛争化の原因となったものと思われます。


契約締結上の過失の対策 



では、上記のような不幸な結末とならないためには、どのような対策が考えられるでしょうか。上記を教訓とすると、以下のような措置が考えられます。


基本契約の締結 


契約締結上の過失」のリスクを回避する上では、早期からの法律専門家の関与による紛争予防に関する助言を受けることはもちろんですが、対策として、製品開発→製品販売や物件改装→物件賃貸のように取引が多段階となるようなケースにおいては、まずは取引の全体像を定める「基本契約」を締結することが重要となります。


これにより、仮に開発段階で取引が頓挫しても、基本契約に基づいて取引全体に対する責任を追及することが可能となります。


仮合意の書面化 


取引全体に対する「基本契約」の締結が困難である場合には、たとえば開発に関する契約を分離してこの部分に関する契約書だけをあらかじめ取り交わすことや、議事録や覚書として交渉過程を書面化し、相手方から差し入れがされた確認書のような書面に対しても、投下資本の回収確保という観点から法的なレビューを行い、これを修正して両当事者による覚書ないしは暫定合意書としておくことが必要となるでしょう。


なお上記事例のように確約のない事項について保証するかのような書面の交付は、かえって紛争の原因となりかねないため、その記載内容は暫定的な合意事項を正確に反映したものである必要があります。


取引経緯の保全 


また交渉を口頭や電話で行わず、出来る限り実質的事項についてはメールで交渉をすることが、その時点での主張が時系列で明確となり、事後の証拠化という観点からも望ましいと言えます。口頭で会合により議論したときは、議事録を作成し、これをメールで送付して相手方の確認を得ておくというのもひとつの手段となります。




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