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販売代理店契約について

更新日:2022年11月8日


 目次   

本記事は、メル行政書士事務所が執筆・運営しています。


販売代理店契約とは 


販売店契約とは、メーカーが製造した製品を販売店が買い取り、その製品を転売する権利を得る契約です。転売による売買代金の差額が販売店の利益となります。類似の契約として、「代理店契約」があります。販売店契約と代理店契約をまとめて「販売代理店契約」と総称する場合があり、こちらの名称の方がビジネスシーンには浸透しています。



代理店契約においては、代理店はメーカーの代理人としてその製品の売買を代理します。製品の売却による利益はメーカーに帰属し、その販売手数料が代理店の利益となります。


販売店契約においては、販売店は、転売により多額の利益を見込むことができる一方、在庫の売れ残りのリスクも負担します。これに対して代理店契約においては、代理店は、定額又は定率の手数料しか収益となりませんが、在庫の売れ残りのリスクはメーカーが負担します。なお単なる販売店や代理店であれば、製造物責任はメーカーに帰属します。


販売代理店契約は、販売代理店が取得する権利の性質により、以下の二つに区分することができます。


独占的販売代理店契約 


販売代理店が、一定地域または一定期間において、製品を独占的に販売する権利を取得する契約です。メーカーによる直売の他、その製品について、他の販売店や代理店に対し、独占的・非独占的にかかわらず、販売権を付与することが制限されます。


これによって販売代理店は、その製品による一定の市場からの収益を独占することができます。そのため販売店としては、競合他社によるフリーライドの恐れを排し、積極的に製品の販促活動への資本投下をすることができます。


またメーカーとしても、販売代理店のノウハウや販売網を活用し、製品の市場開拓につなげることが可能です。一方で、製品の販売経路をその販売店に依存することになるため、販売店や独占地域の選定を慎重に検討する必要があります。


非独占的販売代理店契約 


販売代理店が、その製品を転売する権利を得るものの、メーカーによる直売や、競合する販売代理店への製品の供給は制限を受けない契約です。そのため販売店としては、競合する販売代理店との価格競争のリスクを負担することになる他、製品の販促活動の成果を他の販売代理店に横取りされてしまうリスクもあります。


ただし非独占的販売代理店契約とすることで、製品の購入代金や最低購入数量、代理店手数料などの点で、販売店に有利な取り決めをする余地が広がる可能性があり、販促活動に関してメーカーから干渉を受けにくいというメリットがあります。


販売代理店契約のメリット 


販売店契約を活用することにより、メーカーは以下のようなメリットを得ることができます。


販路の拡大 


メーカーが販売のための人的物的な設備を有していない場合や、その販促活動にユニークなノウハウを要する地域への進出などに、販売代理店のノウハウと販路を利用することにより、製品の市場開拓を効率的に進めることができます。販売代理店としても、メーカーのブランドや社会的信用を活用することにより、自らの営業活動や広告活動の顧客吸収力を向上させることができます。


在庫リスクの転嫁 


販売店契約においては、販売店が製品を買い取ることが前提となるため、メーカーはその分だけ在庫リスクを販売店側に転嫁することができます。とりわけ最低購入数量を定めた場合には、一定数の売り上げを確保することができるため、在庫管理上の予測可能性が向上します。ただし代理店契約の場合、在庫リスクはメーカーが負担します。


 条文例:最低購入数量 


第〇条(最低購入数量)

販売店は、毎年〇月〇日から翌年〇月〇日までの間において、製品を少なくとも〇個以上メーカーから購入しなければならない。



これに対し、販売代理店は以下のようなメリットを得ることができます。



収益の確保 


代理店契約の場合、販売代理店はメーカーと消費者の間の売買をあっせんしたことによる代理店手数料を得ることができます。販売店契約の場合には、メーカーからの仕入値と消費者への小売価格の価格差が収益となります。


代理店契約によった場合の手数料に比して、販売店契約によった場合、在庫リスクを負担することの見返りとして、転売による利益はより高額となることが期待できます。とりわけ独占的販売権を得た場合には、競合他社によるフリーライドの恐れを排して、製品の販促活動に積極的な資本投下をすることが可能となります。


販売権の維持 


一般に販売店契約において、販売店が販促活動のための投下資本を回収するためには一定の期間を要するため、販売店契約においてはメーカーから長期の契約期間を確保することができます。判例においても、メーカーが販売店契約を終了させるためには正当事由が必要とするものや、相当な予告期間もしくは金銭的補償を要するとするものがあります。


独占禁止法と販売代理店契約 


販売代理店契約において、以下のような事項を合意することは、一定の場合に、独占禁止法違反となるリスクがあります。そのため販売代理店契約にこのような規定を置く場合には、法技術的な工夫が必要です。


営業地域の制限 


メーカーが販売代理店に対し、一定の営業地域外での販売活動を制限したり(「厳格な地域制限」)、一定の営業地域外からの顧客の求めに応じて販売することを制限すること(「地域外顧客への受動的販売の制限」)は、それによって価格維持効果が発生する場合には、独占禁止法に違反するリスクがあります。価格維持効果が生じるか否かは、そのメーカーが「市場における有力な事業者」であるかどうかにより左右されます。


価格維持効果価格カルテルなどメーカーが直接に販売価格を制限すること以外の方法で、販売価格を操作することにより生じる、製品の価格の維持効果
市場における有力な事業者市場におけるシェアが20%を超えるメーカーのこと

これに対して、メーカーが販売代理店に対し、一定の地域を責任地域として定め、その地域における積極的な販促活動を義務付けること(「責任地域制」)、および販売拠点の設置地域を一定地域に制限したり指定したりすること(「販売拠点制」)は、通常は価格維持効果が認められないため、販売代理店契約において定めても問題はありません。


再販売価格の拘束 


販売店契約において、製品のブランドイメージへのダメージや価格競争を防止するため、メーカーが販売店に対し、再販売価格を一定額以上とするよう求めることがあります。


しかしこのような行為は、それが販売店契約である場合、独占禁止法における「不公正な取引方法」に該当し、販売店契約でこうした事項を定めることはできないため注意が必要です。ただし代理店契約であれば、代理店はメーカーの製品を転売するわけではないため、販売価格はメーカーがその裁量で決定することができます。


直接に再販売価格を販売店契約において規定していなくとも、再販売価格に対してインセンティブやリベートによる誘因を与えたり、再販売価格以下での販売に対して警告を発したりリベートを供与しないなどの不利益を与えることも、独占禁止法に違反します。


また価格を維持する効果が生じた場合には、それが定額であることは必要ではないため、メーカーが販売価格に事前承認をすることや、希望小売価格の〇%以内など幅を持たせた指定であっても、販売代理店を何らかの手段により拘束することができる場合には、やはり独占禁止法に違反します。


ただし著作物の販売店契約においては、独占禁止法の例外規定により、これが認められる場合があります。


独占禁止法第二十三条第一項: この法律の規定は~(中略)~相手方たる事業者とその商品の再販売価格~(中略)~を決定し、これを維持するためにする正当な行為については、これを適用しない。
同条第四項: 著作物を発行する事業者又はその発行する物を販売する事業者が、その物の販売の相手方たる事業者とその物の再販売価格を決定し、これを維持するためにする正当な行為についても、第一項と同様とする。

知的財産権と販売代理店契約 


製品に関して商標権や特許権などの知的財産権が存在している場合には、販売代理店契約において、その取扱いについても合意する必要があります。販売代理店の責任地域や契約の有効期間に合わせて、知的財産権の許諾範囲を明確とし、許諾対象となる知的財産権を特定しておくことで、販促活動に知財を有効活用しつつ、知財の財産的価値を維持することができます。


 条文例:商標の使用許諾 


第〇条(商標の使用許諾)

メーカーは、販売店に対し、以下の範囲で商標の使用を許諾する。


 許諾商標:別紙1記載の商標

 許諾地域:○○

 許諾範囲:製品の販売促進活動に使用する広告その他の販売促進物への使用

 使用料:一か月当たり○○円


商標権に関しては通常使用権、特許権に関しては通常実施権を販売代理店に付与することになります。これらの使用権・実施権は登録することにより、第三者に対しても主張することができ、場合によっては第三者による違法な使用に対する差し止めも可能となります。


販売店代理契約の概要 


販売店契約とは、メーカーが製造した製品を販売店が買い取り、その製品を転売する権利を得る契約であり、代理店契約とは、メーカーと消費者間の売買を代理店があっせんの上代理する契約です。販売代理店がその権利を独占的に取得するかどうかにより、独占的販売代理店契約と非独占的販売代理契約があります。販売代理店契約により、メーカーは販売店の販路を活用しつつ在庫リスクを低減することができます。


一方で、販売店に対する厳格な地域制限や再販売価格の拘束は、独占禁止法上問題となるリスクがあります。また知的財産権の使用許諾についても、十分な検討が必要です。

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